Macユーザーとして松下電器に抗議する

ITmediaニュース:ジャスト「一太郎」の販売中止を命じる 松下アイコン訴訟で判決*1

すでに色々な所で話題になっている判決ですね。*2


さて判決文ですが、

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/79b15c35c791549249256f9b0023169e?OpenDocument

アイコンは,前記1(3)で認定したとおり,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であって,現実のキーボードのキーと対応する必然性はなく,むしろ現実のキーボードのキーに存する数量的あるいは位置的な制約を離れて,多様な機能を自由に担わせることができるものであって,この両者の間には,なお質的な相違が存在しているといわざるを得ない。

つまり松下の特許は「多様な機能を自由に担わせることができるアイコンを選択することによる機能説明」に新規性が存在するとされているようです。
実際、出願情報の審査官フリーワード記事に「表示項目の選択で機能説明表示」とありますね。

しかしながら、古くからのMacユーザーなら知ってる通り、アイコンを選択することによりその機能を説明するヘルプ機能は、System7のBalloon Helpを待つまでもなく、System6の時点で既知の技術でした。

http://www.mactech.com/articles/mactech/Vol.03/03.11/HelpSystem/index.html

Context Sensitive Help

On-line context sensitive help is an implementation of Apple’s guidelines of giving the user extra help without referring him to external documentation. By the very nature of context sensitive help, it must be initiated from within the program. We suggest that you implement context sensitive help in two steps: (1) When the user hits ‘Command-?’, convert the pointer to a “?”. (2) When the user selects anything on the desk top with the “?” pointer: an icon, a menu item, or a field in a document, make your program call the Help desk accessory and passes it a parameter that indicates which message should be displayed. (See figure 7, Extended Alerts)

このMacTechの記事は1987年のものです。
上の引用部分によると、commandキーと?キーの同時押しにより、カーソルが?に変化し、次に画面上のアイコン、メニューアイテム、文書のフィールドなどを選択することにより適切なヘルプが表示される機能の実装をデベロッパに促しています。*3

もう一点、松下の特許は「機能説明用アイコン」の表示にもポイントがあるように見えます。

しかしながら同じMacTechの記事に

Invoking Help

There are three ways in which users can activate the Help desk accessory: (1) From the Apple Menu, (2) using ‘Command-?’ if you have implemented Help In Context and, (3) pressing the Help button in an alert box if you have implemented Extended Alerts.

ヘルプ機能の実行には1)メニューから、2)キーコンビネーションから、3)ヘルプボタンから、の3つがあるとしています。
Macにおける「ボタン」概念には当時アイコンを含むものも含まれていたことはHyperCardの記事などからも明らかでしょう。

http://www.mactech.com/articles/mactech/Vol.03/03.10/HyperCardProgramming/index.html

この1987年のHyperCardに関する記事には、Helpアイコンをクリックすることによって、画面上に機能説明を表示する方法について書かれています。*4

松下の特許は「Helpアイコン」から「Context Sensitive Help」を呼び出せるようになっているだけであり、「表示項目(アイコン)の選択で機能説明表示」という核心部分の技術が松下独自の発明ではないことが理解できます。
したがって松下の1989年10月出願の特許は以上の1987年のMacTech記事を知るものなら容易に想到できたレベルのものと評価せざるを得ないです。

(05/2/5追記:当時の日本は刊行物公知に関しては既に世界主義をとっていたようで、マルチウインドウシステムが争点になった訴訟ではカシオの特許の無効が認められた例があるようです。*5

知的所有権の保護が叫ばれる昨今ですが、我々が守らなければならないのは、この松下の特許のようなレベルの低いものではなく、むしろ今回敗訴したJustSystemの日本語変換に関する独自の技術などではないでしょうか?
正当な権利の行使と言う人もいるでしょうが、このような些末なUIに関する特許とその権利の濫用は、日本のソフトウェア技術のレベルの向上を阻害するものでしかないでしょう。
IBMが自身の持つ特許500件をオープンソースに無償提供*6したのと対照的であり、日本社会のソフトウェアやIT技術に関する理解が、あまりにも低すぎる*7ことを証明した判決だと思います。

松下製品の購入を止め、松下のイメージが非常に悪いことを表明することで、こうした権利濫用の動きに抗議していくべきなのではないでしょうか?*8

この記事に関連するエントリ
アイコンとicon
http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050206/p1
続・アイコンとicon
http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050207/p1
まとめ
http://d.hatena.ne.jp/shiomaneki/20050207/p2

*1:ジャスト「一太郎」の販売中止を命じる 松下アイコン訴訟で判決 - ITmedia NEWS

*2:ちなみにこの記事は2chのななしさん情報によるところが大です。情報提供者の方、ありがとうございますた。

*3:1987年当時のMacintoshはSystem4であり、まだMultiFinderは登場していません。したがってMacTechの文脈ででてくる、デベロッパがContext Sensitive Helpを実装しなければならない「icon」とは、デベロッパ自身のアプリケーション内で使用されている「icon」のことであると考えられます。05/02/06追記

*4:この1987年刊行のMacTech記事の図に見るように、HyperCardのボタンの属性設定ダイアログには「Icon...」というボタンがあります。この「Icon...」ボタンからボタンにアイコンを貼付けることが出来ます。scriptを設定すれば、「絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」という先の判決で出された「アイコン」概念に該当するものを実現できます。05/02/06追記

*5:http://homepage3.nifty.com/matsumura-lo/Hanrei/comment/30maltiwindow.htm

*6:IBM、500件の特許をオープンソースに「寄贈」 - ITmedia エンタープライズ

*7:理解が貧困である例:http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050202ig90.htm asahi.com : ネット最前線 : 朝日新聞ニュース

*8:http://miuras.net/matsushita.html