メイプルリーフ

この一話のために、エル・カザドの残りすべてが作られたのではないか?
そんなことさえ感じる超重要エピソード。エリスとハインツ博士の過去話でした。
話は、エリスがまだ幼かった時代、おそらくはハインツ博士の元にあずけられて間もない頃に始まります。
検査拒否を繰り返すエリスに手を焼くハインツ博士を若き日のローゼンバーグが訪れます。
エリスのことを「検体」と呼び、感謝祭などの人の世の事は一切意に介さない冷徹な研究者、それが、ハインツ博士でした。
ローゼンバーグはハインツ博士に入れ知恵をします。
「心には心を。」
ローゼンバーグの差し入れたヌイグルミを胸に抱き検査を受け入れる幼いエリス。
時は流れ、エリスの部屋にはヌイグルミが並んでいます。
最初のヌイグルミはローゼンバーグの持ってきたもの。
しかし、それ以外のものは検査をいやがるエリスのために、おそらくハインツ博士自身がその都度贈ったものなのでしょう。
最初のヌイグルミを手にとり見つめるハインツ博士へエリスは言います。
「それが一番好き」
そのヌイグルミがローゼンバーグの持ち込んだものとは知らないエリスにとって、それは、ハインツ博士との絆の始まりの場所に位置する大切な思い出の品なのです。
雪だるまにカエデの葉(メイプルリーフ)の髪の毛と針金のメガネをのせて博士に似せるエリス。
そしてエリスの体が冷えていることを心配するハインツ博士。
暖炉の側で、
「どうだ?温まったか?」
と聞くハインツ博士に対してエリスは、
「どうして?」
と、答えます。
実験体として生まれたときから、両親の愛情も人間らしい感情も学習する機会の無かったエリスには、なぜハインツ博士が、エリスにそのようなことを聞くのか理解できていないのですね。
一方、ハインツ博士はそんなエリスとの日々の中で、けして小さくない影響を受けているようです。
大きな変化のない報告書の内容についての会話を交わす中で、ローゼンバーグはハインツ博士がエリスの事を「彼女」と呼んでいることに気付きます。
「どうやら、闇に光が差し込んできたようですし。少しばかり。」
ローゼンバーグにとって、その変化は見逃せないものだったようです。
手足をバラバラに引きちぎられたあの思い出のヌイグルミ。
それはローゼンバーグの仕掛けた罠です。
その前で悲しみに立ちつくすエリスは、「力」を使いヌイグルミを元通りにしようとするのです。
部屋に突然吹き込む嵐のような風。
ヌイグルミの手足は徐々に近づいていき・・・。
「エリス!!やめるんだ!!」
ハインツ博士はエリスを引き寄せ抱きしめます。
博士に抱きしめられ落ち着きを取り戻すエリス。
「素敵な夕暮れだ。」
ローゼンバーグはその一部始終を窓の外で見ていたようです。
「本当だったんだ。悪魔は実在した。でも・・・。」
エリスの寝顔をながめながら、ハインツ博士は一つの決意を固めます。
ハインツ博士はエリスに能力をコントロールするトレーニングを施す一方、ローゼンバーグには嘘の報告書を上げます。
エリスの能力に変化無し、と。
ローゼンバーグはハインツ博士の元を訪れ、報告書の内容についての疑念を指摘します。
昨年の同時期のものと同じデータではないか、と。
「カマをかけても無駄だ。私はデータの捏造などしていない。」
もちろんハインツ博士がそんなわかりやすい捏造をするはずがありません。
昨年の同時期のものと同じデータではないことを、実データを捏造しているハインツ博士自身は良く知っているのです。
「たまには湖にでも出掛けてはいかが?エリスも外に出たいでしょう。」
そんなローゼンバーグの釣り針にも、ハインツ博士は完璧に答えます。
「検体を外に出すつもりはない。カルタヘナ議定書を忘れたのか?」
窓の外を見たまま、ありとあらゆる質問に完璧な答えを返すハインツ博士。
そこにハインツ博士のエリスを守ろうとする本気の覚悟が見て取れます。
そして、いまや博士が真剣に研究プログラムを逸脱し、プロジェクトリバイアサンに反旗を翻していることを確信したローゼンバーグは、ハインツ博士の排除とエリスの回収へとその舵を切ることになるのでしょう。
青空を見上げるエリス。
ハインツ博士は初めてエリスを外へと連れ出します。
大きな湖の水面も、その波も、その水の冷たさも、すべて生まれて初めて経験するエリス。
その様子をみて、エリスが人生を彩る様々な物事を知らずに生きてきたことに、改めて気付くハインツ博士。
「エリス・・。」
万感の思いのこもったこのシーン。泣きました。ええ、泣きましたとも。
研究者と実験体という関係からどんどん逸脱し、ハインツ博士は「人間らしい生活」をエリスに経験させようとします。
一方で、エリスも、博士から実験体として扱われる検査を再び拒否するようになります。
それは実験体としての生活が「普通ではない」ことを知ってしまったエリスの心の叫びでもあるのでしょう。
そしてハインツ博士は約束するのです。「もう二度と検査はしない」と。
研究者と実験体ではなく、二人の人間としての絆を結ぶ、そういう約束です。
感謝祭の日、ハインツ博士は慣れない七面鳥の丸焼きに挑戦しているようです。
パーティに相応しいと思うドレスを選ぶように、と言われたエリスは、博士へのプレゼントを用意したようです。
夕日差す窓辺で博士にプレゼントを渡すエリス。
「好きだから・・・」
とまどいながら、それを口にするエリスは、もはや実験体のエリスではありません。
思春期の少女らしい感情を備えた一人の人間としてのエリスです。
「・・・ありがとう、エリス」
そしてついに二人で逃亡することを決意するハインツ博士。
二人に新しい未来が広がっていたはずの感謝祭の夕暮れ。
しかしメイプルリーフを踏みにじる侵入者と銃声によってその時間は突然絶ち切られてしまい・・・。
その後のことは描かれません。
ただ枯れたメイプルリーフと針金のメガネが描かれるだけ・・・。
マッシーモ、ありがとう。
ありがとう、マッシーモ
いえっさも変態もタコスもない。
けど根底にあるのはまごうかたなきエル・カザド
あー後半はうるうるしっぱなしだったさ。

今回の一つの謎は、ローゼンバーグはなぜ、ハインツ博士がエリスを「彼女」と呼ぶのを聞いて、「闇に光が差し込んできたよう」だと思ったのか?
ローゼンバーグは「魔女の力」が発動するためには、悲しみや怒りといった、激しい感情の変化が必要であり、そういった感情の変化を引き出すためには、「人としての絆」の構築が重要である、とかなんとか、そんな感じの知識なり仮説なりを持っている可能性があるのではないか?
だとすると、将来ナディが大変危険な目に遭いそうなのですねー。
どうなんだろう。

ところで、メイプルリーフ、それはエリスにとって、博士との思い出の象徴。
そして実はエリスが捕らわれていた場所を暗示するものでもあるようです。
劇中、ハインツ博士が世界で10番目の面積をもつ湖と言っていますが、これはカナダのグレートスレーブ湖の事のようです。
そしてメイプルリーフとはカナダ国旗のことでもあります。
なぜにカナダ、とか突っ込んではいけないのでしょうけど。