実は今回の視聴の前に、アズラッタ様のブログを読んでしまったため、今回が山本麻里安脚本であることを事前に知ってしまい、
AS姐さん、自重してくれ〜〜。」
と、悶えたのも今は良い思い出。(はえーな、おい。)
事前情報が無ければ、すべてを見終えて、脚本のクレジットがでるまで山本脚本であることに気付かなかったと思います。たぶん。
つまり、それだけ桃華月憚の脚本として、ある意味、違和感のない手慣れた脚本だった、ということではないかと思います。
とは言っても、そこは桃華月憚
これまでとは異質なエピソードをさらりとやってしまっています。
アイドルの追っかけ(が、こんなことしてるかは知りませんが)のごとく、桃香を盗撮する胡蝶三姉妹。
ところが、そこへ桃花が割り込んできます。
「桃花はイラナイ子」と判断した胡蝶三姉妹の指示で、二宮会による桃花に対するねちねちと陰湿なイジメが始まります。
髪の毛をこっそり切り取られ、下駄箱の上履きを隠されてしまう桃花。
おそらくは不穏な空気を感じ取っているであろう鬼梗様によって、上履きは桃花のもとへと返りますが、生徒会長であり、皆の尊敬を集めているであろう鬼梗の手を、新参の編入生である桃花が煩わせた、と見た周囲の生徒達によって、むしろイジメは加速することになります。
教室の位置を周囲の生徒に尋ねても答えてもらえない桃花。
おそらくは二宮会が流した桃花に関するウワサが広まり、生徒達は桃花に距離をとり始めています。
一方、桃香は桃花の目の前で、白川さんに二宮会サロンでのお茶に誘われ、半ば強引に連れ去られてしまいます。
このシーン、能登回のシーンとの良い対比になっているのですが、白川さんと桃香の関係そっちのけで、今回の山本桃花は手作りケーキのほうに反応しているのですね。
マヌケなびよ〜ん、ぼよ〜んという効果音と相まって、桃花の天然食欲魔人ぶりが強調されています。
一応、恋愛感情が生まれる前、ということを表現する能登回への伏線のような気がするわけですが、アニメ「桃華月憚」のキャラクターである桃花のパブリックイメージとしては、この山本桃花が正しく、前回の能登桃花がむしろ異質であったという気分がする不思議。
連れ去られた桃香は、無理矢理、胡蝶三姉妹の双六あそび(人生ゲーム?)につきあわされます。
一方、桃花へのイジメは、
お葬式ごっこと悪意に満ちたメッセージ、
弁当箱に入れられた使用済みのアレ、
などのように、桃花を対象とした明確な悪意へとエスカレートしてゆきます。
朝、真琴に後ろから声を掛けようとする桃花。
しかし、その瞬間、他の生徒が真琴に声を掛け桃花から遠ざけます。
真琴は桃花の力になってくれるはずですが、桃花を快く思わないグループは二人を接触させないよう振る舞うのです。
桃香も胡蝶三姉妹に絡め取られ、孤立無援の桃花。
いじめは、いじめられる側にとって、どこまでも不条理なものでしかありません。
自分は、なぜ、いじめられるのか?
現実世界においても、そこに答えはありません。
その存在自体を否定しようと、悪意ある者は忍び寄るのです。
顔を桃花にすげ替えられ壁に貼られたエロコラ写真、食べてくださいと渡された気色悪い虫のプレゼント、廊下でわざとらしく肩をぶつけられて自分は悪くないのについ謝ってしまう桃花。
これだけのイジメにあいながらも、ここまでなんとか耐えてきた桃花は強い子なのです。
しかし体育の時間にはボールをぶつけられ、更衣室では制服を鳥の死体で汚されます。
もはや限界。ついに涙をこぼす桃花。
そこへ紙飛行機で届けられる悪意の追い打ち。
この世界に味方はいない。
そう考えてしまったとしても仕方のない状況。
その時、桃花に眠るセイの力が発動します。
吹き飛ぶ校舎の窓ガラス。
一方、双六をゴールし白川さんのキスのご褒美を迫られる桃香
明らかに胡蝶三姉妹の罠なのですが、桃香に助けを求める桃花の魂の呼び声に気付き、白川さんを突き放して駆け出します。
ひとつ間違えば、「キャリー」(スティーブン・キング)のような展開への分岐が起こりそうな状況下、
桃花はセイの力に身を任せることを拒むのです。
そして、なんとかセイの力を鎮めようとします。
「桃花!」
その時届く桃香の声。
桃花からセイの力が抜けていきます。
この部分の桃香と桃花の会話には、桃花へのイジメに関連する言葉は何一つ出てきません。
桃香が、大丈夫か?お前はドジだから、といい、それに対し桃花が、私なら大丈夫、桃香ちゃんが来てくれたから、と返す。
日常会話の延長のようなやりとり。
それでも桃花は救われるのです。
味方になって側にいてくれる人がいる。
ただそれだけのことが桃花を救うのです。
桃香との間にできた温かなつながり、それを桃花は「生まれたての心」と呼ぶのですね。
(桃花役の早見沙織さん、うまくなりましたよね。)
この時点で桃花にとっての「イジメ問題」は事実上終結しているわけで、
てっきり、この二人のシーンの後、
「・・・ツヅク・・・あたたか〜い〜」
と、EDが始まるかと思ってしまいましたよ。
でもやっぱりそれだと「イジメはどうなったのさ?」というツッコミの嵐にもなりそう。
ラストシーン、普段通り(いつも以上?)の元気さで桃香と登校する桃花。
もう桃花は大丈夫なのです。何があっても。桃花はまっすぐで、そして強い子です。
そして胡蝶三姉妹側におけるイジメの終結
「くわばら、くわばら」
の一言で済ませたところに「脚本家 山本麻里安」のセンスを感じました。
蛇足を承知で付け加えると、かつて神仏と同列に人々に祀りあげられていたセイと、所詮ただの人形に過ぎない胡蝶三姉妹では、その力の差は歴然としている事でしょう。
セイの力の発現を見た胡蝶三姉妹は「触らぬ神に祟りなし」とばかりに桃花に関しては不干渉の立場をとることになったのが、この「くわばら」発言に集約されています。
二宮会が手を引いた後、一般生徒のあいだに広まっていた桃花へのイジメはどうなったでしょうか?
二宮会のとりなし、あるいは桃香や真琴の努力で、桃花へのイジメは消えたのかもしれません。
あるいは、これまで劇中で描かれなかっただけで、桃花へのイジメは完全には無くなっていなかったのかもしれません。
それが桃花の持つ「陰」だった。
そんな解釈も成り立つことでしょう。
でも、桃花には桃香が、真琴や章子やパル彦が、多くの味方がいることを私たちは知っています。
だから桃花は桃花として、強く生きていけるのです。
桃花の抱える「陰」。
それが明らかになることで、これまで私たちが追ってきた逆再生の物語が、また別の色彩を持って見えてくる。
これは逆再生だからこそ可能な一種の叙述トリックのようなものかもしれません。
他にも、イジメ描写の連続だと重くなってしまいそうな部分に、軽いタッチのすごろく描写を混ぜて、バランスをとると同時に、いじめられる側にとって不条理な苦痛であるところの「イジメ」が、いじめる側にとってはゲームの一つでしかないことの対比にもなっていたりと、「うまいなー、山本麻里安」と思うコトしきり。
うん、脚本家でも食ってけるよ、山本麻里安
(誉めすぎ?正直、声優脚本で、どこまでが参加声優側に任されているのかわかりません。シリーズ構成の腕による部分が実際には大きいのかもしれませんね。)
次回は「嫁」。
桃花と真琴はオレの嫁。鬼梗と寧々もオレの嫁。ついでに桃香とパル彦もオレの嫁。
章子は・・・章子はいいや。