惑う女

前回、黒エリスに虫けらのように弾き飛ばされたエルエー。
そのままお星様になってしまったか、とも思われましたがどっこい生きてます。
「・・・助けて、エリス・・・」
そして、エリスの髪の毛で作った、あの小さな人形を握りしめ、
「・・僕はだまされていたんだ。やっと気付いたよ・・・」
と、つぶやくエルエー。
彼を操り、その心を弄ぶローゼンバーグへの怒りをエルエーは露わにします。
「・・・僕は、僕で居続けなくちゃ・・・何があっても、僕は・・・」
腕輪の秘密に気付き、破壊するエルエー。
「・・・出て行け。僕の中から、出て行け、ローゼンバーグ・・・」
呪詛のような言葉。可哀想なエルエーです。
腕輪は機能を停止したようですが、彼の心を縛るものは腕輪だけではなかったことがのちにわかります。

傷つき意識を失ったままベッドに横たわるナディ。
自分がやったのかと問うエリスに、ブルーアイズは包み隠さず、そうだと答えます。
その意図を図りかねたリカルドに対し、ブルーアイズは、エリスが「力」を持つ人工の魔女であることを打ち明けます。
ベッド脇でナディを見守るエリス。
コップを差し出すリリオの優しい気遣いにエリスが涙を浮かべたとき、インカローズの共鳴が始まります。
意識を回復し、水を所望するナディ。
ナディの元気な姿に安心したエリスは倒れ込みます。
ブルーアイズが共鳴を始めたインカローズを見ていたときの表情から考えて、彼女はエリスが「力」を使うであろう事を予見した上で、真実をそのまま伝えたのでしょうね。
リカルドとナディにすべてを打ち明けるブルーアイズ。
(このシーン「羽ばたく女」で流れていたBGMが使われてますね。もはや「ブルーアイズのテーマ」と呼びたい気分。)
しかし、それをエリスは聞いてしまいます。
人工の魔女であるエリスのもつ力。
それが、世界に、そしてナディに災いをもたらすことを自覚したエリスは迷いの中に沈みます。
エリスのことを心配するナディに対し、ブルーアイズはエリスが下すであろう結論を尊重したいと言います。
本物の魔女の力をこの目で確かめたいと願うブルーアイズにとって、エリスがウィニャイマルカへ到達することは、その願いが叶う千載一遇のチャンスのはずです。
しかし、「羽ばたく女」の回で、自分自身の想いに従って生きることを選んだブルーアイズは、エリスにもそうあって欲しいと考えたのでしょう。
エリスの「飛んで!」という呼び声に促され、決断したブルーアイズにとっては一種の恩返し、彼女なりの優しさではあるのです。
ベンチに座り、物思いにふけるエリスに、前回、ウィニャイマルカへの道を示した老人が話しかけます。
老人はエリスに対し、魔女の力はコントロールすることで、良いことにも使えるのだ、と諭します。
しかし、前回、巨大インカローズとの共鳴に飲み込まれ、それをコントロールできないままナディを傷つけてしまったエリスには、その言葉は届きません。
力なんていらない、というエリス。
立ち去ろうとするエリスの後ろ姿に、何かを感じ取ったナディはエリスを呼び止めます。
振り返らないエリス。
しかし、ナディにはエリスが泣いていることがわかります。
「バイバイ、ナディ。」
人間離れした跳躍力でエリスはその場を逃げ出すのです。
追おうとするナディと、それを呼び止めるブルーアイズ。
エリスは自分自身で答えを出そうとしている、お節介はよしなさい、というブルーアイズに対し、ナディは、それは違う、と反発します。
「あんたは自由は素敵なことだと思ってる。でも、すぐにわかる。自由のほうが苦しいって、つらいって。」
喜怒哀楽を分かち合う誰かが欲しかった。
間違ったことをしているときに、間違っていると言ってくれる誰かが欲しかった。
支えてくれる誰かに、側にいて欲しかった。
堰を切るナディの想い。
ナディが自身の内面を誰かに詳しく語ったのは、エル・カザドの中では、これが初めてなのではないでしょうか?
自由気ままに、お気楽に、これまで生きてきたかのように見えるナディ。
しかし、親しい人たちを幼くして失い、それ以来、ひとりぼっちで生きてきたナディにとって、その自由とは、孤独と背中合わせの日々のことだったのですね。
第2話「待つ女」でフリーダ達との別れの後、涙を隠せなかったナディ。
ナディが賞金稼ぎをしていることに、お節介にも、くちばしを挟んできた女主人フリーダに対し、ナディは「三回殺す」とか物騒なことを言ってはいましたが、それも含め、温かく支え合う人々の姿は、あの時のナディにとって、それは望んでも手の届かぬぬくもりだったのでしょう。
一方で、第3話「降られた女」で、孤独の内に死んだであろう一軒家の主人に想いを馳せるナディは、誰か親しい人たちの帰りを待ちわびながら死ぬよりは、はじめから孤独であったほうが幸せだ、と考えていたようです。
心のどこかで支え合う存在を求めながらも、幼いときに負った深い心の傷が癒えないナディは、再び親しい人たちを失う痛みよりは孤独であることを選んでいた。
それがエリスに出会って間もない頃のナディだったのでしょう。
でも、今のナディはそれが間違いだったことを知っています。
それをナディに教えたのは他ならぬエリス自身なのです。
第6話「恋する男」で初恋のミゲルの死に遭遇したナディは、はじめ一人でその悲しみに耐えていました。それがナディのやり方だったのです。しかし、エリスは共に悲しむことでナディとその悲しみを分かちあいます。
エリスがナディと出会うことで変化したように、ナディもまたエリスと出会うことで変化してきたのです。
そして、今、ナディを巻き込まないために一人になろうとしているエリス。
一人で運命を背負い込もうとしているエリスに、ナディは伝えなければならないことがあるのです。
一方、ナディを見送るブルーアイズに話しかけるリカルド。
孤独の痛みを知るナディだったからこそ、エリスがその心を開いた。
そのことをリカルドはブルーアイズに理解して欲しかったのですね。

ナディと別れたエリスは、エルエーを探し出します。
一緒に行こう、話しかけるエリス。
行き先はウィニャイマルカではないどこか遠いところ。
手をさしのべるエリスと、それを受け入れるエルエー。
ローゼンバーグのコントロールから逃れたいエルエーと、ナディを巻き込みたくないという思いから一人になったエリス。
経緯はともかく、エルエーにとっては夢にまでみた状況でしょう。
エリスにとっての心の距離そのままに、ずいぶんと離れて座っている二人。
しかし、エリスに買ってもらったタコスを、おいしそうに食べるエルエーは年相応の(ちょっとキモイけど)純情な少年のようにも見えます。
この瞬間が、エルエーにとっての人生最良の時になってしまいそうでアレです。
彼の魂が安らぎを見いだした後に逝くことを願うばかり。(死亡フラグであることが前提かよ。)

エリスの目撃情報の場所へ移動中の車内。
ナディはブルーアイズに言い過ぎたことを謝ります。
組織の中で生きてきたブルーアイズの抱えていた弱さ。
自由気ままに、しかし、一人で生きてきたナディが抱えていた弱さ。
二人はお互いを理解することで和解するのですね。
これはこれで案外良いコンビです。

タコスを食べ終えたら出発しようというエリス。
しかし、その時、エルエーの心を砕く電話の呼び出し音が鳴り響きます。
おそらくは腕輪の機能喪失後も、ローゼンバーグがエルエーをコントロールするために与えた暗示。
それは電話の呼び出し音をトリガーとして働くものであったようです。
「僕は、僕だっ!僕なんだっ!」
心を蝕むローゼンバーグの影と必死に戦うエルエー。そして・・・
「・・・あぁ、いなくなった・・・出て行った・・・良かった・・・」
そういって立ち上がり、エリスに近づくエルエー。
果たして勝利したのはどちらのエルエーだったのでしょうか?
身の危険を感じたエリスはエルエーから逃げ出します。
一人佇むエリス。
そこに現れるナディ。
再び逃げ出そうとするエリスの腕をつかみます。
「離さないよ。何があっても。」
もうナディを傷つけたくない、というエリスをナディは引き寄せ、肩を後ろから抱くと、言い聞かせるように耳もとで囁きます。
「バカ。今度そんなこと言ったら、絶対、許さないんだから。」
「こんなにちっちゃいくせに、一人でおっきいこと考えて。私の身にもなれ。」
「ウィニャイマルカへ行こう。そのために今まで旅してきたんじゃない。」
「私は決めてるんだからね。あんたを全力で守るって。」
「だから、心配いらない。魔女の力なんてどうでもいい。」
「ウィニャイマルカへ行けば、探してた答、わかるかもしれないんだからさ。」
「大丈夫。何があっても、私が側にいる。あんただけにつらい思いはさせない。」
そしてエリスの目に涙が。
気持ちが届いたことを確信し、OK、相棒?と問うナディ。
そしてエリスの世界で一番甘い「いえっさ」が炸裂。
砂吐いた。甘々すぎ。なんでしょうか、この愛の告白。
毎度、ふたりの愛の語らいを見せつけられているブルーアイズはモヤモヤしてきたりはしないのか、とか余計な心配をしてしまうほど。
煩悩のヘリカルモートリスが止まりません。
ああ、イカン。邪念で画面が霞む。
かつて、エルエーが見下していた、支え合わなければ生きていけない人間の弱さ。
しかし、ひとりぼっちの(エルエーの)心は脆く、支え合う(エリスの)心は鋼のように強い。
ブルーアイズさんの言うとおりです。(と、邪念を払う。)

今週のダグは遺跡の入り口にて白スーツで登場。出たな、変態マスター。
ナディ「アンタ、誰?」
いっそエリスも思い出さなければ、ローゼンバーグに精神的ダメージを与えられたかもしれませんのに。

さてさて、盛りだくさんな内容だった今回ですが、まだまだ謎を小出しにしてきてます。
エリスに話しかけていた老人が、話し終えた後、力が抜けたようになるのを見咎めたブルーアイズは、あやしげな人影に気付きます。
魔女風のローブを身にまとい、カーテンのひらめきに風のように消えたあの女性。
魔女会議側がエリスへの関与をあきらめたかのようにブルーアイズは言っていましたが、まだ、知らないところで何かが行われているのかもしれません。
それにしてもあの女性、前回、老人の持っていたロケットの写真の女性、ザイダに似ていたような気がしないでもないですね。
彼女が口を開くとき、すべての謎が明かされることになったりしませんか?
しないですか?そーですか。
そういえば、リカルドとリリオの目的も未だ明かされぬまま。
ひっぱりますな。

次回は「逝く男」。
エルエーとリカルドの再戦という噂が頭にあったので、予告の拳銃を持つメイプルリーフの頃のエリスにドキリとしました。
何かに、なにがしかの決着がつく予感。